こわいもの



   クラブのクイーン

 トランプのカードの中で、クラブのクイーンというのがこわかった。こいつの面構えは、なんだか悪い魔法使いのおばあさんのように見えていた。


   こわいゆめ

 文章にしてしまうとこわさを伝えきれないかもしれないが、こんな夢をみた。もう20年も前のことであるが、いまだにこれがいちばんこわい夢である。

 どういうわけか、ひとりで森の中をさまよっていたのである。孤独の中で歩き続けているうち、人家を発見した。あたかもヘンゼルとグレーテルが森の中でお菓子の家に遭遇したように。夢の中の私は、この上ない安堵を感じ、僥倖の到来を確信した。

 近づいてみると、確かに人の気配がする。窓から覗き込むと、老人が四人、将棋盤を囲んで回り将棋をしている。年齢の見当もつかない人間離れした相貌の老人たちである。

 ―― 回り将棋、ごぞんじですね。4枚の「金」をサイコロ代わりにしてやる、あのゲームです。「金」を振ると表が出たり裏が出たり、時には直立したりして……。もしかしたら、奇跡的に逆立ちするなんてこともあるかもしれません。

 ひとりのおじいさんが4枚の「金」を振る。なんと、「金」は4枚とも逆立ちした。つぎのおじいさんが振る。また、4枚とも逆立ち。その次のおじいさんも、またその次も……。全員がすばらしい技量の持ち主で、いつまでたっても勝負がつかないのだ。こんなゲームに興じたまま、すでに数十年か数百年の時が経過しているかのようだった。

 一瞬、おじいさんの手元が見えた。その指は、将棋の駒を握りやすいように、異様に変形しているのだった。

 ……というところで、目が覚めた。


   竜の子太郎

 子どものころはこわくなかったものが、長じてこわいものになることがある。

 竜の子太郎のおかあさんは、イワナを食べて竜になってしまったのだそうだ。そんなのは、別にこわくはない。よくあることだから。

 こわいのはさいごのほう・・・。めったにないことだから、こわい。

 おかあさんが体当たりして岩山を壊す場面。

 子どものころ、人類に明るい未来をもたらすと信じられていた、こんな話に似ている。

 「ソビエト連邦のトルクメン共和国では、運河を建設して広大な砂漠に水を引きました。その結果、砂漠は綿花の栽培ができる豊かな土地に生まれ変わりました」



枝葉末節譚 1

radiko(表紙)
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